FFTアナライザ入門

第2章 信号処理の基礎(2)

オートパワースペクトルとクロススペクトル

オートパワースペクトル

オートパワースペクトルは、複素スペクトルにその共役複素数を掛けることにより求められ、1つの信号が持つパワーの各周波数成分を示します(常に正の実数)。

クロススペクトル

クロススペクトルは、1つの信号の複素スペクトルの複素共役と,もう一つの信号の複素スペクトルを掛けることにより求められ、2つの信号で決まるパワーの周波数成分を示します(一般に複素数)。

フーリエ変換によって求められた複素スペクトル

複素数のデータでそれぞれの共役複素数

ノイズの影響

実際の測定信号にはノイズが含まれます。ただし、ノイズ信号とその他の信号とのクロススペクトル値はアベレージすることにより無視できると考えることができます。下記の式では、オートパワースペクトルでは入力側や出力側のノイズがアベレージしても残っているのに対して、クロススペクトルでは、アベレージすることによって、真の入力と真の出力のみが残っていることが確認できます。

伝達関数とは何か

電気系や構造物の伝達特性とは、入力と出力との関係を表したもので、時間応答と周波数応答があります。周波数解析で用いるのは周波数応答関数(Frequency Response Function )になります。周波数応答関数は、入力および出力の周波数f の成分の比として下記のように定義されます。

伝達関数の実際の求め方

実際の測定ではノイズが含まれますが、伝達関数の種類によって、入力側または出力側のノイズの影響を平均化を行うことで小さくすることができます。

伝達関数の種類

出力のノイズ低減効果はありますが、上記の式から判るように、入力側ノイズNAの影響を受けます。ノイズNAは分母にあるため、真の伝達関数より小さめの結果となります。

入力のノイズ低減効果はありますが、上記の式から判るように、出力側ノイズNBの影響を受けます。ノイズNBが分子にあるため、真の伝達関数より大きめの結果となります。

H1とH2の中間的な性質を持ちます。

各種伝達関数の特徴

コヒーレンス関数

伝達関数の信頼度を判断する関数としてコヒーレンスがあります。コヒーレンスは以下の定義式により計算することができます。

コヒーレンスの値で入力信号以外の影響を見ることができるため、通常伝達関数と一緒に求めて伝達関数の信頼度を判定することに用いています。この値が小さい場合には、ノイズの混入,リーケージエラー,非線形ひずみなどが生じているかなどを疑う必要があります。