FFTアナライザ入門

第3章 FFTアナライザの基礎

FFTアナライザの構成(入力部)

入力信号は入力アンプによって増幅、または減衰を受け一定のレベルに変換させて、アンチエイリアシングフィルタ(折り返し防止フィルタ)に入ります。 アンチエイリアシングフィルタは、周波数分析を行う周波数レンジ以上の周波数の信号を減衰させて解析結果に誤りが発生しないようにします。

FFTアナライザの構成(データ処理部)

その後、信号はA/D変換器へ入力され、FFT演算を行えるようにディジタル信号に変換されます。
演算処理部でFFT演算処理が行われ、表示部で表示されます。
箱型のFFTアナライザでは1つの機器内で上記の処理を全て行っていますが、パソコンに接続するタイプのFFTアナライザでは上記の処理を分担して行っています。
A/D変換以降をパソコンで処理するタイプと演算処理部以降をパソコンで処理するタイプがあります。

電圧レンジ

入力レベルに応じた適切な電圧レンジを選択する必要があります。入力レベルより電圧レンジが大きすぎると計測精度が悪くなりますし、入力レベルより電圧レンジが小さいと正しい計測結果を得ることができません。
上図の上段は適正な電圧レンジ、下段は入力レベルより小さい電圧レンジが選択された例です。どちらも同じ信号を入力しています。

カップリング

FFTアナライザでは、一般的に下記のカップリングを選択すすることができます。

ACカップリング

ハイパスフィルタ回路によりDC成分を除去します。入力信号がオフセット電圧を持っていても、ダイナミックレンジを生かした計測が可能になります。

DCカップリング

ACカップリングのハイパスフィルタの影響を受ける低い周波数成分を解析する場合や、オフセット電圧を含めて時間波形を観察したい場合に使います。

ICP

アンプ内蔵方式電圧出力型センサを用いるときに使用します。 FFTアナライザ側から信号ケーブルを通してセンサ側に直流電流を供給することができます。カップリングはACになります。(ICPはPCB社の登録商標なので、他センサメーカではDeltaTron、ISOTRON、PIEZOTRON等で呼ばれています。)

校正

センサから計測器に入力される電圧信号を振動レベルや音圧レベルのような物理値として表示させるには、校正の設定が必要になります。

サンプリング周波数とアンチエイリアシングフィルタ

FFTアナライザでは、サンプリング周波数とアンチエイリアシングフィルタは連動しています。
解析周波数を設定することで、アナライザ内部では自動的にサンプリング周波数とアンチエイリアシングフィルタが決まり、折り返し成分の無い解析を可能にしています。

例:解析周波数1000Hz

このときのサンプリング周波数「fs」は2560Hzとなり、アンチエイリアシングフィルタとfs/2の関係は左図のようになります。

周波数分解能とライン数

解析周波数とサンプル数が決定されると、周波数分解能やライン数も一意に決まります。括弧内はfmax = 5kHz、N = 1024としたときの結果です。

1)周波数レンジ(解析周波数)fmax(5 kHz)
2)フレームサイズ (時間窓内サンプル数)N(1024)
3)サンプリング周波数 fs =2.56×fmax (12.8 kHz)
4)サンプリング周期 Δt =1/ fs (0.078125ms)
5)フレーム周期 (時間窓長)T=Δt×N (0.08s)
6)周波数分解能 Δf = fs /N=1/T(12.5 Hz)
7)表示ライン数Nline=N /2.56=fmax/Δf(400)

周波数分解能と振幅

左図は、フレームサイズ1024と4096の設定で同一のランダム信号を入力し、振幅(RMS)の大きさを比べてみたものです。振幅値が異なっていることが確認できます。これは、FFTによる周波数分析結果は分析周波数そのものの周波数成分を示しているのではなく、分解能の幅を持った周波数範囲にある成分を表しているためです。同一のランダム信号でも異なる周波数分解能で解析すると、振幅レベルが異なってしまうので注意が必要です。この例では4096点FFTの結果は1024点FFTの結果のほぼ1/4となっています。

トリガ計測

入力信号をフレーム単位で連続的にFFT演算する計測をフリーラン収集、連続収集とFFTアナライザでは表現しています。

この収集に対して、測定対象を計測用のインパルスハンマで打撃し、その加振力と応答加速度から伝達関数を求める場合などは、トリガ収集、つまりトリガ信号に基く計測と呼びます。

測定開始のタイミングを決めるための機能です。一般的に下記の設定を行なう必要があります。(赤丸はスロープ正の時のトリガ位置になります。)

トリガレベル

電圧フルスケールを100%としてトリガを検出するレベルを指定します。

トリガディレイ

トリガが掛かった点を基準点として、基準点より前(プリトリガ)からデータをサンプルするか、基準点より後(ポストトリガ)からデータをサンプルするかを指定します。負の値を指定するとプリトリガ、正の値を指定するとポストトリガになります

スロープ

トリガレベルにおいて入力信号の立ち上がりでトリガを掛けるか、立ち下りでトリガを掛けるかを選択します。

平均化処理

ノイズの影響を小さくする目的にも使われますが、平均化処理はデータのバラツキを安定させる目的もあります。
平均化処理は主に加算平均のことを指している場合が多いようですが、他にも目的に応じた平均処理があります。

● ピーク平均
各周波数成分の最大値を保持する処理です。指定した時間内の最大値を確認する場合に使用します。

● 指数平均
過去のデータと最新のデータに重み付けを行う処理です。データの平滑化、突発ノイズの影響軽減などに使用します。