開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第13回
振動式粘度計のJIS規格化について

シリーズ 『開発者の思い』 第13回
2011年06月15日

振動式粘度計のJIS規格化について

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今回は2011年5月20日に公開されたJISZ8803:『液体の粘度-測定方法』の内容改訂についてお話します。今回の改訂で最も大きな変更点は、今まで規格には無かった振動粘度計が新たに規格化された事となります。振動粘度計の規格化詳細については、改訂されたJIS Z8803本文及び解説に譲りますが、その背景について少しお話します。

振動式粘度計の原理は古くから提案されていましたが、技術的なハードルがあり製品化を困難としていた背景があります。そのため、製品が市販されてからは20年程度を経ていると判断されます。一方、米国の自動車メーカーとなるフォード社は、100年以上前に、量産化の先鞭を付けて粘度管理を始めています。そのころから色々な粘度計が提案されており、粘度計には大変長い歴史があるといえます。

話をJISに戻します。粘度の測定方法に関するJIS規格は1959年に制定されました。規格は5年毎に改訂される事との決まりでしたが、最後に改訂された1991年から20年間見直しがなされず今日に至りました。 しかし、この間、世界では日進月歩での技術革新が進み、かつ日本を取りまく産業界や社会情勢は大きく変化しました。粘度測定の分野に関しても、新たな粘度測定方法として、振動式粘度計が技術確立され量産が進みました。そして、産業界では特に研究分野と生産ラインでの液体の制御や管理&解析手法として多数の振動式粘度計が使用される状況となっています。

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この振動式粘度計の展開には、半導体(IC)技術を基本とした電子回路技術の高性能化、またそれに伴う制御技術の高度化と計測のデジタル化及びPCを利用 した解析結果の可視化がありました。

粘度は液体の物性を評価する方法として、最も基本的な物理量となっています。 その理由ですが、例えば液体のライン搬送を行う時には、その流量を含めた設計に動粘度を利用しています。また、例えば車のエンジンオイルでは高温・低温時におけるオイルの粘度が、エンジン特性のみならず、エンジンの焼き付き現象を支配している事も明らかです。特にエンジンオイルについては、最近ではオイルによるエンジン内の機械的なエネルギーロスを如何に低減し、その結果、燃費をどれだけ向上させるかに関して、各メーカーは、しのぎを削っています。

飛行機を操縦する場合でも駆動系には多数の油圧シリンダーが利用されており、使用温度が大きく変化する事を考慮した粘度の連続測定が重要となります。

上記産業分野以外でも、清涼飲料水関係では『のど越し』を決める、水に近い低粘度の測定が本格化しており、流動食やレントゲン撮影に使用するバリウムなどの食品関連分野でも、誤飲を防ぎ、また飲みやすさを追求するために粘度の測定が必要となっています。その他、医療分野でも少量サンプルでの胆液や血液の粘度測定が必要となり振動式粘度計による測定が注目されています。

今回改訂されたJIS規格には振動粘度計として音叉式と回転振動式の2種類が追加されました。振動式粘度計の特長は感度が高くダイナミックレンジが広く、水以下の低粘度から水の10000倍程度までの粘度の連続測定が可能となる事、また数mlからのサンプル量から測定できる事、測定時にサンプルに加わるエネルギーが最小となる為、数十秒で測定が終了する事、温度変化時の粘度の連続測定が可能である事となります。

新しい素材開発の分野には、新しい測定方法が必要と判断されます。そこで今まで粘度測定の難しかった上記分野で振動式粘度計が使用され、新分野での材料開発や品質向上に貢献できる事、しいては日本の優位な材料技術を支える粘度測定方法として多くの分野で有効に利用される事が期待されています。

最後に以下の記載を追加させてもらいます。 今回、約1年間という短時間での大幅な粘度のJIS規格改訂を担当された関係各位には、大変な負担になった事と思われます。また、その位置付けが微妙な状況となっている日本のJIS規格の現状に対して、世界に先駆け規格化を遂行されましたことに対して、本紙面を借りまして、その努力と尽力に感謝とお礼を申し上げます。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)