開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第9回
分析天びんBMシリーズの開発

シリーズ 『開発者の思い』 第9回
2010年10月04日

分析天びんBMシリーズの開発

関連製品ページへ

BMシリーズA&Dは会社創業期以来、現在まで30年間電子天びんの開発を続けています。会社創立当初は、100年以上の歴史を有する先行他社に追いつく為の努力に終止した感がありましたが、創業時がタイミングよく計測機器の電子化が進む時期に一致した事、また徹底した基本性能出しと同時にコストダウンを行い、コストパーフォーマンスの追求を寡黙に行った結果、当初はともかく、その後比較的順調に業績が拡大していきました。この結果、現在では日本国内での計量機器の台数ベースでのシェアが60%を超えるに至りました。しかし、その守備範囲の高精度側は最小表示が10μgとなるセミマイクロ分析天びんまでとなっていました。

現在、国内にはマイクロ天びんを生産しているメーカーは無く、世界でもマイクロ天びんメーカーとして認知されているのは2社のみです。ですからA&Dとしてもマイクロ天びんの市場投入は長年の懸案事項となっていました。リーマンショック以降経済活動が復活したとは言えない昨今ですが、このような状況であるからこそ、国産マイクロ天びんの開発は、自社の責務と考え数年前から製品の開発に着手しました。

開発に当たっては、最も重要となる計量性能にこだわりました。つまりマイクログラムを計量する時に問題となる各種外乱をいかに低減し、かつ使い易いものにするかが最大の課題となりました。また、過去多くの天びんを市場に出した経験から、最小表示が0.1㎎以下となる分析天びん使用時の最大の問題は静電気にある事が理解されていました。静電気については湿度が40%以下となる太平洋側の冬場には、測定される試料だけでなく、天びんの操作者(人)の帯電が大きな誤差要因となる事が判明していました。

静電気以外でも測定される試料と雰囲気の僅かな温度差や空気の対流による計量誤差が発生し、その他、風圧による建物のゆれや地震後に続く建物のゆっくりとした振動の影響も計量を不安定にする誤差要因となっています。これらのゆっくりとした低周波振動や静電気を人は容易に感じられない為、理解できない計量値のフラツキ現象として、使用現場では解決の難しい特異な問題であると認識されています。

振動を除く上記誤差を解消する対策として、

  • ①計量物を積極的に除電する機能の付加。
  • ②熱による対流を含む微風の影響低減。
  • ③天びんの外から来る静電気を完全にシールドする。

の3機能の付加を目標として新しい分析天びんの開発に着手しました。提案内容の実現には約3年の歳月を必要としましたが、設定された問題を一つずつ解決する事で、試料の帯電を無風で強力に解消できる直流式除電器の天びん本体への内蔵化と専用除電室の設置、操作性を阻害しない2重風防リング方式を採用した風防構成、操作者の帯電など外来静電気に対する高いシールド効果を発揮する導電性を付加したガラス風防の採用など、高いレベルの新機能を実現し、安定してマイクログラムを計量できる計量技術を確立しました。

この新技術を搭載したマイクロ天びんとしてBMシリーズを製品化し発表しました。この結果、BMでは数キロボルトの帯電物を風の発生が無く、1秒以下で除電する機能を持ち、風防内の風防となる2次風防を必要とせず、通常の分析天びんと同程度の操作性を維持できる秤量室(オープンスペース方式)での繰り返し性2.5μgの基本性能と、10KVに帯電した人が近付いても計量値に影響しない静電気シールド性能などを高い次元で達成した分析天びんとして完成させる事ができました。

BMシリーズでは20g×1μg、250g×10μg、500g×0.1mgの高分解能3機種を代表として最大分解能2,500万分の1となる全6機種を製品化しました。製品の位置付けは、マイクログラムまでの測定ができる分析天びんの最上位機種とし、購入時に無理のない妥当な価格設定を行いました。

BMの市場としては環境計測に必要となる粉塵の計測、欧州の自動車排気ガス規制(Euro4、5)に規定されるPM計測、元素分析時のサンプリング、インクジェット他の微量塗布量管理、粉体の微量切り出し、コーテイング材料の計量管理など、多くの分野で使用される事を想定しています。

また、ユーザーとしては、現在セミマイクロ(10μg)天びんを使っており、これからは1μgまでの測定を希望している研究者や、より厳密な計量精度を要求される品質管理担当者など、既存のマイクロ天びんがあまりに高価で使用をためらっていた人にも、今までの分析天びん同様の操作性を維持し、かつもう一桁表示を見たい性能重視の分析天びんとして使われる事を想定しています。基本性能の良さを理解してもらい、BMシリーズが性能を重視した分析天びんとして広く認識され、分析業務の現場でコストパーフォーマンスの高い商品として貢献できる事を希望しています。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)