FTTアナライザ入門

第1章 信号処理の基礎(1)

サンプリング(標本化)

サンプリング(標本化)とは、連続信号を時間的に離散的な値(図の黒い線)に置き換えることです。デジタル信号処理を行うには、アナログ信号をA/D変換器によりサンプリングして離散的な信号に変換する必要があります。アナログ信号をデジタル信号化するときの単位時間当たりの標本化回数のことをサンプリング周波数といいます。

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量子化

量子化とは、標本化された各信号(左図の点線)をレベル的に離散的な値(右図の実線)に置き換えることです。離散値の間隔が狭いほど、量子化の精度を上げることができます。 また、量子化の情報量(量子化ビット数)は計測器のダイナミックレンジと密接な関係があります。標本化では時間をデジタル量に変換しましたが、量子化では振幅をデジタル量に変換しています。

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ダイナミックレンジ100dBとは?

dB(デシベル)とは?
パワーの比の常用対数を10倍した単位。
Aを電圧や電流,力や速度,音圧や粒子速度などの基本物理量とすればそれらを二乗してパワーの次元になおして比をとります。
ダイナミックレンジ100dBとは?

上記の条件の時に100dBとなるので、100dBとは10万倍を表していることになります。
計測器でダイナミックレンジ100dBと言えば、入力電圧レンジの10万分の1まで精度が保証されていることを示しています。 例えば、電圧レンジが20dBの場合、 100dBを引いた-80dBよりノイズレベルが十分に低ければ、ダイナミックレンジ100dBとなります。

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音や振動の0dB

音の0dB (基準値)は?
20μPa(マイクロパスカル)
人の耳に聞こえる1000Hzの最小の音圧レベルである20μPaを0dBにしています。
振動の0dB(基準値)は?
10 -6m/sec 2(ISO)または10 -5m/sec 2(JIS)
人が振動を感じ始める大きさは55dBで、45dBでも人は揺れを感じないそうです。そのため、音のように最小値を0dBにしていません。
人間の感覚域値に相当する1ガル(10-2m/sec2)を基準値にする案もあったようですが、振動の測定領域などを考慮してISOでは10-5m/sec2となりました。

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サンプリング(標本化)の注意点

サンプリング(標本化)する周波数をサンプリング周波数と言います。
正弦波の周期を知るには、一周期に二点を越えてサンプリングしなければなりません。
つまり、信号中に存在する最大周波数をfmaxとしたとき、 2 fmaxを超えるサンプリング周波数fsでデータ収集すれば、すべての信号の情報を処理できることになります。この原理をサンプリング定理と言います。

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エイリアシング(折り返し現象)

入力信号にサンプリング周波数 fsの半分以上の高周波成分が含まれていると、実際の信号より低い周波数の信号として現れます。これをエイリアシング(折り返し現象)と言います。
左図では、サンプリング定理を満たしていないために、本来は83Hzである信号が、17Hzとして扱われてしまうことを示しています。
右図では、87Hzの信号が、サンプリング周波数の半分の50Hzを境にして17Hzに折り返されてしまうことを示しています。

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アンチエイリアシングフィルタ

通常のFFTアナライザでは、アンチエイリアシングフィルタ(折り返し防止フィルタ)と呼ばれるローパスフィルターが用意されています。フィルタ形状がスクエアでないために余裕を持って、2.56倍など2倍を超える周波数で実際にはサンプリングしています。左図の点線が折り返し成分になりますが、解析範囲内ではダイナミックレンジ以下に折り返し成分が入るようにフィルタを設計しているので、解析値に影響はありません。

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フーリエ級数展開

フーリエ級数とは、任意の連続周期信号は基本波 f0 とその整数倍の周波数の成分の和で表現することが出来ると言う物です。
式中の x(t)は時間信号、 X(f)はその周波数成分になります。

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フーリエ変換

フーリエ級数では基本周期をT0(=1/f0)の有限値として扱っていますが、 周期性の無い信号も扱うことができるように,有限だった周期をT→∞ として導き出されたものが上記のフーリエ変換の式になります。

e -j2πftは1秒間に2πfラジアン(f回)反時計回りに回転するベクトルであり、x(t)の成分のうち、それとまったく逆に回転する(つまり、周波数が+fの)成分だけが回転しなくなり、-∞ から +∞ まで積分することにより、その成分X(f)のみを取り出すことができます。

ただし、無限の過去から無限の未来までの信号を観測しなければ結果を求めることはできません。これでは実際の計測に用いることはできないので、ある一定の有限期間だけ信号を観測し、その観測期間を基本周期とするフーリエ級数を求めることによりフーリエ変換を近似的に求めています。

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離散フーリエ変換(DFT)

有限期間のデジタル化(離散値化)されたデータに対してフーリエ級数を導き出したものが、上記の離散フーリエ変換(DFT)の式になります 式中の x(n)は信号系列、 X(k)はその周波数成分になります。

e -j2πkn/Nはnが0からNまで変化すると、0<k<N/2のとき、大きさ1の円周を負(反時計回り)の方向にk周するベクトルであり、x(n) の成分のうち、同じ角速度で正の方向に回転する正の周波数成分を取り出すことができます。また、N/2<k<Nのとき、大きさ1の円周を正(時計回り)の方向に(N -k)周するベクトルであり、同じ角速度で負の方向に回転する負の周波数成分を取り出すことができます。

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高速フーリエ変換(FFT)

実際の測定器では高速に離散フーリエ変換を行う高速フーリエ変換(FFT)が用いられています。FFTでは連続信号を無限時間に渡って積分することができないので、サンプリングにより離散化された1フレームの観測周期の信号を用いています。

フレーム(枠)とは、FFT ではある一定時間の時間軸データを切り出して演算を行っていますが、この切り出す枠のことです。
また、FFTでは1フレームのサンプル数が2のべき乗である必要があり、この信号が無限に繰り返されると想定しています。

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時間波形からスペクトル

オシロスコープのような横軸が時間軸、縦軸が振動や音のレベルを表示している測定器では、波形は時間に対するレベル変化としてとらえることができます。これに対し、FFTアナライザでは、元の信号を各周波数成分に分離(中央図)して、横軸を周波数軸上に描く(右図)ことも出来ます。

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リーケージ(漏れ)エラー

連続波形から任意の区間で切り取られた1フレーム分の時間信号です。開始点と終了点が一致していません。
FFTでは切り取られた1フレームが延々繰り返し続くと想定して計算します。フレーム間の繋がりが、不連続となっています。
スペクトルの裾野が広がっていることが確認できます。
FFTの前提はフレーム周期毎に同じ信号が繰り返されることですが、フレーム間の繋がりが不連続の場合、インパルス状の信号が含まれていると見なされ、インパルス成分がノイズとしてスペクトルに含まれてしまいます。このノイズの影響は、スペクトルの本来のピークにパワーが集中せず、左右に広がりが生じることからリーケージ(漏れ)エラーと言われています。

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ウインドウ関数の効果

連続波形から任意の区間で切り取られた1フレーム分の時間信号に、ハニングウインドウを掛けてみました。ウインドウ処理後の波形では、開始点と終了点が一致しています。
また、ハニングウインドウは以下の定義式により計算することができます。

フレーム間の繋がりが、連続となっています。
ウインドウを掛けない時間波形から求めたスペクトル波形よりも裾野の影響を小さく出来ていることが確認できます。

このように、リーケージエラーを抑えるためには、ウインドウ関数処理が必要となります。ウインドウ関数処理は、リーケージエラーを減少させるため、FFT演算を行う前の時間波形に両端がゼロとなるような山型の関数を掛け合わせることです。 (窓関数の種類による)

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ウインドウ関数の種類

最適=◎ 適=○ 不適=×

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