開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第37回
『微風風速計:AD-1641の開発』

シリーズ 『開発者の思い』 第37回
2015年11月02日

『微風風速計:AD-1641の開発』

風速1m/s以下の微風を測定できる、微風風速計を開発しました。今回は、この風速計の開発を行った背景や、安全キャビネットに関わる市場情報をテーマとしてまとめました。

数年前にマイクログラムの測定ができる、マイクロ(ミクロ)天びんBMシリーズを開発し、販売を開始しました。BMシリーズは、現在、唯一の国産マイクロ天びんとなるBM20、22をフラッグシップ機としています。その他、ひょう量250gのフルレンジで最小表示10μgとなるBM252があります。250gまで10μgが量れる分析天びんは、現在まで世界で唯一(世界初)の機種となるなど特長ある製品となっています。

BMシリーズを企画した時、研究室や代理店を回り市場調査を行いました。この時、研究室にあるミクロ天びんが、ほこりを被り放置されているのを多数確認しました。200万円もする高価なミクロ天びんが、なぜ放置されているのか?と研究者に聞くと、表示が不安定で使えないとの回答がありました。その当時、約10年前にミクロ天びんの販売を開始した国内メーカが、市場クレームの多発から、すぐにこの市場から撤退した事も記憶にありました。これらの背景から、マイクロ天びんを売り出すのであれば、国内天びんメーカの責任として、最終的に購入者の迷惑となる市場対応は防がなければならないと考えました。

色々な研究室を回った結果、マイクロ天びんを研究室の中央テーブル上に置き、背後を人が通るなど、人の動線近くに天びんを配置している。天びんがエアコンの吹き出し口の直下にある。窓際に置かれ直射日光が天びんにあたる。など分析天びんを配置するには不適当な場所に、マイクロ天びんの置かれている事が多いのに気がつきました。そして、マイクロ天びんの販売に合わせて、分析天びんの設置場所として妥当な所を示す必要があり、その為には温度、湿度、気圧、振動&風速の環境計測が避けられないと判断されました。

良く考えてみると、環境要因に敏感なのは天びん自身なので、天びんの計量値を長時間モニターすれば、その環境評価が可能となる事にも気が付きました。また、それと同時に環境測定を同時に行えば、計量値が不安定となる原因も確定されると判断されました。それを実現する為に、製品開発と同時に、天びんの持つ内蔵分銅を定期的に上げ下ろして、得られた、ゼロ点とひょう量値から、スパン値を繰り返し確定し、得られたスパン値から、繰り返し性を出す事を思いつきました。また、この時、天びんに誤差を与える環境要因として、温度、湿度、気圧、振動、風速の同時測定が必要となりました。

このアイデアを、計量器の設置環境評価方法『AND-MEET』*として具体化し、BMシリーズの販売開始と同時に市場対応を開始しました。

*Mesurement Environment Evaluation Tool

実は、MEETの実施に当たっては、社内で紆余曲折がありました。それは、MEETの実施には、人手(人件費)がかかり、その経費をどのように考えるかでした。営業サイドからは、①天びんを設置しMEETを行い、また②得られたデータを取りに行き、また③説明に行くのでは、天びん1台を売るのに手離れが悪すぎ、ビジネスとして成り立たないとの主張が聞かれました。

私は、サービス料金としてMEET実施に、約10万円の価格設定をすべきと主張しました。また何回も顧客訪問できれば、新たな商談に繋がると説得しました。しかし、ほとんどの反応は、A&Dは物を売る会社なのでサービスで儲ける会社では無い、また顧客が無形のMEETに10万円を支払う事は、あり得ないと言うものでした。 延々と続いたこの社内の議論は、無意味なものとなりました。物事の価値は、それを最終的に購入する人が判断・決定するからです。

既にMEET提案から4年を経過し、A&Dのマイクロ天びんは営業担当者が安心して売れる機器となり、毎年売上が増える稼ぎ頭となりました。研究者から見ると、高価なマイクロ天びんを購入して、使えない事が最大のリスクであり、そのリスクを回避&低減できる方法が提案される事は、10万円では安いとの判断があり、それが結論となりました。また、マイクロ天びん設置時にMEETを受注しなくても、予め計量トラブルへの対応が準備されている事を説明することで、研究者が何よりも安心感を持つ事が確認されています。またマイクロ天びんを売り始めるにあたっては、具体的な環境改善ツールとして、独自に設計した卓上風防と卓上除振台、及び天びん台の販売を開始し、市場サポートを行いました。

話の脱線が長かったので本題に戻ります。

分析天びんの設置環境評価以外で、研究室内で微風を測るニーズとしては、①ドラフトチャンバーやバランスエンクロージャにおける開口部の風速測定&記録、②動植物の飼育&生育環境の測定&記録、③クリーンルーム&クリーンベンチ内でのエアーフローの測定&記録、精密機器の運送&使用環境の測定&記録などが考えられます。BMシリーズを販売開始した当時、天びんに関わる環境要因として考えられる、温度、湿度、気圧、振動&風速を同時に測定&記録できる機器は、世の中にはありませんでした。そこで、今回、微風速の測定機能を追加した微風風速計:AD1641を開発しました。AD1641を利用する事で、研究から生産現場までの環境要因となる、温度、湿度、気圧、振動、風速と計量値を含む6データを、同時に10000セットまで記録できる環境計測ツールが完成しました。

Fig.1に、AD-1641の使用例としてバランスエンクロージャ:AD-1673の開口部風量を測定している写真を載せましたので、参考にしてください。

AD-1641の使用例としてバランスエンクロージャ:AD-1673の開口部

AD1641が、例えば各種安全キャビネットに必要となる風速測定に利用されれば、分析や材料開発に関わる研究者や、素材の生産現場において、人の安全&安心確保に必要となる環境記録ツールとして有効に働くものと考えます。

今まで世の中に無い新製品を、日本国内から新たに提案し、販売に繋げるのが難しい事は既に経験しています。しかし、これからも時間の許す限り、今までにない新たな付加価値のある、創造的な製品企画とその実現、及び販売努力を続けたいと考えています。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)