『計量豆知識』

計量技術情報 【計量豆知識 第5回】

1. 電源ヒューズが切れる(その1)

「昔のウェイングインジケータを新しいものに切り替えたら、電源のヒューズが飛んでしまった。」 といったお問い合わせを受けました。 お話をよく伺うと、昔の製品は20年以上前の物との事。そうすると、電源回路が現在主流になっているスイッチング電源ではなく、シリーズ電源であるはずです。

電源のヒューズを選定する場合、まず気になるのが使用機器の消費電力ですね。最低でも消費電力を供給できるだけの電流容量のヒューズを使用しなければなりません。では、ヒューズのマージンはどのくらい必要でしょうか。

ここでちょっと意地悪な質問をします。 たとえば、100V、60Wの白熱電球があります。この電球を点灯させると何Aの電流が流れますか? ・・・・ 60W ÷ 100V = 0.6A ですね。 では、ヒューズは0.6Aの定格のものを使用すればよいのでしょうか? 答えは”No.”です。 試しに白熱電球の抵抗値を測定しましょう。私の手元にあった60W電球の抵抗値は僅か14Ωでした。これでは100Vをかけたら7Aもの電流が流れてしまいますね。 実際には、100Vを印加すると、その瞬間は大電流が流れるのですが、徐々に電流値が低下し、最終的には0.6Aになるのです。通電した瞬間はフィラメントの温度が低いため、抵抗値も低くなっていますが、通電と同時に温度が上昇し抵抗値が高くなっていくからです。 ですので、電球とヒューズの特性がミスマッチであると、通電した瞬間にヒューズが切れてしまうことがあるのです。この通電した瞬間の大電流を突入電流といいます。

話をウェイングインジケータに戻します。 ウェイングインジケータなどの電子機器の電源回路は、1980年代までは「ノイズが少ない」、「回路が簡単」などの理由でシリーズ電源(大きな電源トランスを使用する電源回路)が使用されていました。この電源回路は、効率は良くないのですが、突入電流があまり大きくないという特徴があります。 ところが、最近主流になっているスイッチング電源は、電源を投入した瞬間に大きな突入電流が、ごく短時間だけ流れるという傾向をもっています。 そのため、消費電力が同じ程度のウェイングインジケータでも、機種を変更するとヒューズが切れやすくなることがあるのです。

では、どのように対策をすればよいのでしょうか。 ヒューズをタイムラグヒューズに取り替えることが必要です。 ヒューズには大きく分けて次の3種類があります。

  • 速断ヒューズ(ファスト・ブロー)
  • 普通ヒューズ(ノーマル・ブロー)
  • タイムラグヒューズ(スロー・ブロー)

タイムラグヒューズは、電源投入時の突入電流には良く耐え、その後の過電流では普通ヒューズと同様に切れるという特性をもったものです。 見分け方は、定格電流の表記の前に“ T ”が書いてあることで分かります。 たとえば、1Aのタイムラグヒューズであれば “ T1A ”のように書いてあります。

参考ですが、弊社のウェイングインジケータ類の多くはスイッチング電源に切り替わっています。
現行機種でシリーズ電源を採用している機種は、AD-4329A、AD-4405A/06A/07Aがあります。(2020年4月現在)

2. 電源ヒューズが切れる(その2)

何年もの間使用していた機器のヒューズが突然切れることがあります。そのようなケースでは、金属疲労が原因になっていることがあります。でも、動く部分のないヒューズがなぜ金属疲労するのでしょうか。実はヒューズは通電時の突入電流で、瞬間的に加熱されて膨張し、また元に戻るということを繰り返しているのです。そのため、長い間使用していると劣化して切れてしまうことがあるのです。 また、同じヒューズでも周囲温度が高い場合には切れやすくなります。これは、温度が上がるとヒューズの抵抗値が上がるため、より発熱・溶断しやすくなるためです。 これらの特性があるため、ヒューズを選定する場合は、使用する機器の定格電流に対し、1.5倍~3倍の定格電流のものを使用することが一般的です。
写真は、今まさに切れそうになっているヒューズをサーマルイメージカメラAD-5636で撮影したものです。
実験のため定格300mAのヒューズに130%程度の電流を流しています。周囲に比べ高温になっていることが分かります。この後十数秒で切れてしまいました。

注)高温になっている部分がヒューズの少し上になっているのは、可視光カメラと赤外光カメラの視差(カメラの位置の差)のためです。