開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第7回
計量データロガー:AD1688の開発

シリーズ 『開発者の思い』 第7回
2010年07月12日

計量データロガー:AD1688の開発

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数年前、計量機器を製造するユーザを訪問した時に、天びんに表示される計量値を簡単に記録できる良い方法がないか?との相談がありました。

客先では、天びんを使用して計量作業を行っていましたが、計量値をデータとして手書きで記録して、その次にデータをパソコン(PC)に手入力していました。管理者は、①その手間を省きたい、②手書きで記録してPCへ打ち込むと数値を間違える可能性がある。③計量現場にPCを持ち歩くのは面倒 の3点が問題になっていると教えてくれました。客先の要求を考えてみると、確かに現在計量値をノートなどの紙ベースの媒体に記録して仕事が終了する事は少なく、多くの計量データはPCにデータとして入力され、ファイル化して報告書になったり、またプレゼン資料などに利用する事が多い実態があります。また、PCへの入力手法としては利用の簡単なUSBメモリ相当の操作性を有している事が重要と考えられました。

USBメモリは専用のソフトウエアを必要とせず、USBメモリを経由したバッチ処理(個々の操作)によりPC間でのデータの受信(記録)と送信ができます。そこで、開発を予定した計量データロガー:AD1688では、最初に計量器(天びん/はかり)の通信ポートから付属する専用ケーブルを利用してAD1688のステレオジャック部へ計量データを送り、次にAD1688のUSBポートをPCに接続して、計量データを直接送信する事にしました。また、これらの処理を専用ソフトウエアの介在を必要とせずにできる仕様としました。

この企画を製品化しUSBメモリと全く同じ操作により、計量器とPC間をバッチで接続する事が可能になりました。PCに取り込まれた計量データは、エクセルの表にも、またPC内のメモ帳など、開かれているすべてのファイルに直接入力する事が可能となり、専用ソフトを事前にPCへインストールする必要がない事もあり、大変便利な記憶媒体とすることができました。

AD1688は持ち運びを考慮して、名刺サイズの寸法で卵のLサイズ相当となる60gと軽量化しました。ポート部を保護するキャップを付属し、キャップ装着時にはIP65仕様(防塵・防滴構造)としましたので、ポケットに入れて容易に持ち運びができます。

製品のメカニズム設計を担当した開発5部の土舘さんは、ケースの組み立てにネジを1本も使わず、通信用ポートを保護する為のキャップを含む3ケースで、この防塵防滴構造を実現しました。皆さんが完成した製品を見れば当たり前にしか見えないケース構造ですが、提案された新しい組み立て&はめ込み式ケースを完成させるのに大変苦労しました。

今まで市場になかったユニークな商品となったAD1688ですが、現在、土舘さんの故郷、秋田にある高品質な工場に電気の基板から組配に始まり、製品組み立て&出荷検査までの生産の全工程を委託しています。

国内生産にこだわった理由は、製品の開発サイクルを早める事にあります。つまり、海外生産に関連して消費される時間と品質トラブル対応工数の低減を図り、本来の開発業務に集中すべきとの判断がありました。民生品とは異なり数量の限定される産業機器でも当然コストダウンは必要となります。しかし、日本のメーカーとしては量産効果よりも製品の品質確保を優先し、時間などの資源を新製品の企画や開発により集中すべきとの判断もありました。

便利で手ごろな計量データロガー:AD1688が、顧客価値の高い商品として認識され、研究分野や、生産ラインでの管理業務に多用される事で、計量現場での潜在的問題を解決する方法となる事を期待しています。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)