シリーズ 『開発者の思い』  第6回

汎用天びん FZ/FX-i の開発(第一設計開発本部 第5部出雲直人)

2010.07.06

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 2006年にGX/GFシリーズの下位機種として、ローコスト汎用天秤FZ/FX-iシリーズを開発し市場投入しました。約30年前にA&Dが天秤市場に参入した当時、旧FX/FYシリーズを投入する事で初めて爆発的に計量器市場を獲得した経緯があり、新しいFZ/FX-iでは、汎用天びんGX/GFシリーズを上位機種として、よりユーザーにとって選択肢の多い機種開発が必要と判断しました。

 旧 FX/FYシリーズの上位機種と位置付けられながら、製品として市場に出す事ができなかった、内蔵分銅タイプとなる幻のFZシリーズを含めた再開発も今回は重要な開発テーマとなりました。

 新しいFZ/FX-iシリーズでは、次の3点が開発目標となりました。

  • 1)センサ部を含むコストダウン(C/D)の徹底及び内蔵分銅機構の品質向上
  • 2)高速応答(GX/GF相当となる1秒以下の計量)
  • 3)IP65となる防塵・防滴構造となる機種設定(世界初となる最小表示:1mgの汎用天秤での防水構造を採用)

 以上の課題はすべて達成され製品化しましたが、今回は特に1)コストダウンについての考えを開発方針と検討事項についてまとめました。

 社内でも毎回議論となるのですが、C/Dの話は顧客には無縁であり表に出す話では無いとよく言われています。しかし、日本での“ものつくり”が衰退しはじめた現在、その衰退原因が根本的に何に因るのかを考えてみると、その理由は以下の2点に集約されます。

  • 日本で作られる最終完成製品のコストが世界市場での競争力を失ってしまった。
  • 日本で提案された技術を背景とした製品が、世界市場では花開かない。

 新しい技術は日本からも多々発信されていますが、日本人の国民性もあり、特に産業界では新しい商品や提案を受け入れる余地が不足し、また経営者の判断が保守的で、技術を 軽視する風潮から、技術的成功が市場での成果に結び付かず、その結果、世界市場をアジア勢に取られる事態が続いています。

 この展開は、皆さんご承知のように、古くはD-RAM、最近では携帯電話、液晶テレビなどのフラットパネル、太陽光発電と続き、またこの先では2次電池やLED照明についても、日本発の技術でありながら、日本の総合電機メーカーは世界市場では負ける事が確実な情勢になっています。

 話が広がり過ぎましたが、完成品市場ではアジア勢に完敗したとしても、上記製品に使われる要素、例えば素材、ユニット、また製造装置及びその構成部品や製品性能・品質を 計る計測・分析機器などについては、そのほとんどが日本製となっている事実があります。

 つまり素材市場など、シンプルに高機能&低コストの要求される部分では、江戸時代から続く、日本人の緻密な職人気質が未だ維持されており、世界市場に対しても優位である事が理解されます。例えば電子天秤においても、部品の性能を維持しながらC/Dを進め、コストパフォーマンスを如何に高く維持できるかは製造メーカーの生命線となり、そこには開発技術者がどれだけ性能&C/Dについて高い目標を設定し、かつ実現できるかが重要な製品開発の鍵となる事が理解されます。

 一般的にコストと品質の80%が設計段階で決まると言われています。この事は上記内容を別の角度から見て的確に表現したものと考えられます。

 以上の背景からFZ/FX-iの開発では、GX/GFに採用したSHSをより一層小型化し、かつ機械加工による切削費用を削減する為に、精密プレス部品を多用しました。

 また、ケースを構成する高価なダイカスト部品を減らす為、下ケースはステンレス製プレス部品とし、上ケースのみダイカスト化しました。そして質量センサ、内蔵分銅昇降装置から、電気ボードを含む全部品を剛性の確保された上ケースにぶら下げました。また、質量センサー部では、高価な希土類磁石を内蔵する磁気回路の小型化はC/Dから避けて通れず、その結果、必然となる高梃子比を実現する必要がありました。そこで支点を2つ持つ2次梃子化を行いました。この時2次梃子の支点と吊りバンドをユニット化した構造を提案し、その実現には業界初となる一体型精密プレス部品を採用しました。このプレス部品では厚さ1mmの金属板を幅約0.3mmに打ち抜きました。業界では、板の厚さ以下の幅は打ち抜けないとの常識があり、この部品は技術の限界を超えたものとなりました。以上の対応により、FZ/FX-iではSHS以前となる旧汎用天秤の質量センサー部のコストを1/4にまで圧縮する事が出来ました。また、課題の1つだった内蔵分銅昇降機構に関しても、それまでの高価で故障の多いギアドモーターを利用して、カムで分銅を上下する方式から、血圧計に利用される圧力ポンプとカフ(アキュムレータ)を利用した空気圧直動式上下運動機構を採用しました。

 この対応により内蔵分銅機構部についても大幅なC/Dを行う事が出来ました。空気圧利用の副産物として、突発電源オフによる内蔵分銅位置の不確定が無くなりました。つまり、電源オフ時には必ず圧力が低下して、内蔵分銅が所定の場所に戻り、質量センサーの負荷とならないようになり、この結果、輸送などによるセンサーの破損が極端に減りました。また内蔵分銅機構の不良により計量作業そのものが出来なくなるトラブルが無くなった事も成果と言えます。突飛なアイデアから始まった空気圧利用でしたが、新しい提案からC/Dと使用現場でのフェイルセーフ確保が可能になった良い例と考えます。

 現在までA&Dが生産して日本国内へ供給している天秤はごく一部の部品と製品を除き、純国産となっています。国内生産が下火となっている現状がありますが、コストと品質のほとんどが設計で決まるとの確信を持ち、オリジナリティあるアイデアを出し、国内に残る周辺技術:インフラを理解・利用する事で、日本発の技術と社会基盤を利用した製品を作り続けたいと考えています。この事で国内の産業維持に微力ながら助けとなり、今後も技術と国内インフラをベースに日本での生産を維持し、世界市場に新製品を提案して行きたいと考えています。