開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第4回
加熱乾燥式水分計MXシリーズの開発

シリーズ 『開発者の思い』 第4回
2010年05月20日

加熱乾燥式水分計MXシリーズの開発

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開発者の思い第四回は自社開発した加熱乾燥式水分計についてまとめました。

A&Dは会社創設後、天びん・はかりの開発を続け、34期となる現在まで30年以上にわたり計量器を作り続けています。しかし創業当初は知名度が低く自社ブランドでの販売が難しかった事もあり、相手先ブランドによる多くのOEM供給を行っていました。

質量測定を応用した加熱乾燥式水分計についても、質量計のみを供給していた時代が長く続きました。技術的に見ると、加熱乾燥式水分計は加熱部分と質量計として内蔵される高感度天びんの組み合わせにより構成されており、天びんは極端に熱に弱く、加熱部分は最高で800℃に達するという自己矛盾を抱えた製品となります。

この天びんにとって大変過酷な温度条件を押さえ込む設計技術には、高い完成度が要求されます。この為、質量計としての要素供給だけでは製品としての完成度に限界がある事が長年の懸案となっていました。そこで、約8年前に水分計の使用現場で究極の性能を出す事を目標に自社技術による100%の製品化に挑みました。

開発を計画した当時、国内の加熱乾燥式水分計市場では圧倒的なシェアと知名度を持つメーカーがありました。そのような状況で、今頃独自性の強い自社ブランド商品を上市しても、市場は受け入れず、売れるはずは無いとの社内意見も聞かれました。

しかし、徹底したコストダウンを行い、同時に高いレベルでの機能&性能を持つ商品は必ず市場で認められるはずとの見解を持ち、自部門には無かった加熱技術の確立を含めて、あえて困難な製品開発に着手しました。

最初の壁は加熱方法となるハロゲンヒーターのコストでした。既に加熱方法としては赤外線ランプ、ハロゲンヒーター、シーズヒーターなどがありましたが、これからの時代は測定時間短縮要求が強まると思われた為、ハロゲンヒーターを採用すべきと考えました。

先行する複数の有力製品ではサンプル皿の表面温度を均一にする為に、皿の外周を覆う馬蹄形ハロゲンヒーターを採用していました。この馬蹄形ヒーターを見積りすると大変高価なものとなり、また安価なストレート管のハロゲンヒーターを採用した製品では、皿上を均一加熱する為に複数のヒーターを並列使用していました。それらの方式を採用しても皿上の均一加熱は難しく、焼きムラが解消できず、また、いずれの方法でも構造が複雑となった結果、高額な商品になっている懸念がありました。

その他、既存の設計ではハロゲンヒーターと加熱される試料が空間を共有しており、揮発成分による汚染でハロゲンヒーター表面が汚れるとハロゲンサイクルが壊れてヒーターが切れたり、発熱量が減るなどの市場トラブルが起きやすい問題を抱えていました。

今考えると大胆ですが、開発当初から何とか1本のストレート管タイプのハロゲンヒーターを利用して皿上を均一に加熱できないかと考えていました。当初は光を反射するリフレクターの採用を考え、リフレクターの材質、表面の光沢、角度、大きさ、形状などについて色々工夫しました。しかし、皿に載せた試料に残る1直線状の焼け跡を消す事はできませんでした。

そこで改めて皿の上面が均一に焼けない原因を考えると、ヒーターからの光(熱)が直接試料に当たる事そのものが問題ではないか?との疑問を持つに至りました。そこでリフレクターではなく、光を受けて自身が温度上昇する部材をヒーターと試料間に配置する方法:後日命名した2次輻射機構:SRA(セカンド・ラジエーション・システム)を思い付きました。

SRAでは耐熱ガラスでストレートヒーターを覆った事により、ハロゲンヒーターの光が最初にガラス表面に当たり、ガラスの持つ熱伝導率によりガラス表面温度を均一に上昇させ、同時に皿に向かって均一化された輻射熱を放出します。試作を繰り返して皿上に載せた試料:コーングリッツ(とうもろこしの粉)が均一に焼けて全面が変色した時、新しい方式による水分計の開発に目処が立ったと思いました。

加熱乾燥式水分計は加熱時の揮発成分発生があり、計量機器の中では最も汚れの激しい製品となっています。SRAを採用した副産物として、今までハロゲンヒーター表面に達していた汚染が、ヒーターではなくSRAのガラス表面に付着する事になりました。清掃の容易なSRA(平面ガラス)表面で汚染を止められる事は、ランプの交換頻度を極端に低下させ、その結果、製品の管理コストとメンテナンスの手間が省けた事も製品の特長となりました。

その他、皿上温度200℃の熱を熱変化に敏感な天びん部分に伝わらないよう7層断熱構造を採用し、最適な場所での天びんの温度補正を行い、最終的には0.001%(10ppm)の感度を出す事ができました。この10ppm感度のある最上位機種MS70を使用する事で、それまで加熱乾燥式では無理と言われていた、プラスチック材料(樹脂ペレット)の射出成形前の水分率管理が可能となりました。この事はMS70の開発による計測器の性能向上が、新たに計量可能となった新市場を開拓&形成した良い例になったと考えられます。

基本性能以外でも製品の使い勝手を考慮し、未知の試料に対して最適加熱温度を30分で自動的に探し出すソフトウエア:Rs-Tempを開発して、同時に強力なグラフィック機能による水分率のリアルタイム可視化を行いました。そしてこのソフトをCD-Rとして標準付属させました。また分子構造に結晶水を持ち、水分率の基準物資となっている酒石酸Na二水和物を製品に標準付属品として追加しました。酒石酸を標準付属品とした事により、製品性能に対するメーカーとしての保証と説明責任を果たす事ができたと考えています。

コストダウンを含む以上の対応を、水分計業界の先頭を切って提案・実現した事で、次第に市場に認められ自社ブランドとして認知され、現在では本製品が国内の0.01%表示の水分計市場で圧倒的なシェアを獲得するに至っています。

水分計MXシリーズの開発を経験した事で、既存市場で成功する為には、今までの概念に囚われない自由な発想を持ち、製品に要求される基本性能と潜在ニーズを探求し、具体的な形にして提案する事が重要であると思いました。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)