シリーズ 『開発者の思い』  第3回

汎用天びん用質量センサーの開発(第一設計開発本部 第5部出雲直人)

2010.05.06

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 2000年に汎用電子天びんGX/GFシリーズの販売を開始しました。この機種は好評を得て、約10年を経た現在でも市場で売れています。その後約3年前に低価格汎用天びんFZ/FX-ⅰシリーズを開発し市場に出しました。これら2機種の天びんには質量センサーとしてスーパーハイブリッドセンサー(SHS)とコンパクトSHS(C-SHS)を搭載しています。今回はこの質量センサーの開発に関わる市場要求と開発状況、及び技術対応についてまとめました。

 過去の天びんでは、僅かな計量値を安定して測定できる事が最大の課題となっており、天びんの計量値が安定するには長時間が必要との認識がありました。しかし、ものつくりの高度化した現在では、高い品質管理と高い生産性という一見相容れない内容を同時に実現しなければならないとの要求が潜在化していました。

 そのような需要に答えられる質量センサーとして約2年の時間をかけてSHSを開発しました。当時、秤量3㎏×最小表示10mgとなる汎用天びんの計量値安定には2~3秒を必要としており、1サイクル1秒以下の実現が必要となる生産ライン上では天びんは使えないとの認識が一般化していました。一方、現在に至るまで、品質を最も精密に、かつ低価格で判断・管理するには質量の測定が一番有利であると言われています。その理由は例えば錠剤の内部欠損や、精密ダイカストの微細な巣、微小なオイル、グリスの塗布量管理など、CCDカメラの限界を超えた管理が可能である事に帰着します。

 SHSでは、ロードセルに利用される高剛性起歪体と電磁平衡式天びんに利用される高分解能の電磁部をハイブリッド化して組み合わせました。一体化したロバーバル構造となる起歪体と電磁平衡部の組み合わせは過去に実施例が無く、社内の技術者からも否定的な意見が多数出ました。しかし、当時既に複数社から提案されていたロバーバル機構から支点、吊バンド、ビームに至るまでの高度な一体化は、製作の困難さと修理の難しさ、加工方法が限定されるなど不利益な部分も多く、その結果高価な部材を調達する事となり、最終的には高額な商品を使用者に押し付ける事になるとの懸念がありました。

 そこで破損し易い支点、吊バンドなどの構造材はあえて一体化せず、独立した要素として残しました。またひずみゲージを利用したロードセルで確立され、量産の容易な一体型ロバーバル構造を利用する事で徹底したコストダウンを実施しました。この対応により独自の質量センサーとしてSHS技術の確立に成功しました。その後、今までにSHSを発展させた事により ①0.5秒の高速応答 ②100万分の1の高分解能(秤量1㎏×最小表示1mg) ③最小表示1μgの高感度天びんなどを製品化する事ができました。またその後より一層のコストダウンを行ったC-SHSを開発し汎用天びんFZ/FX-ⅰシリーズに搭載しました。C-SHSでは2000年以前の旧電磁平衡式センサーコストを1/4に圧縮する事が可能となり、メンテナンス性を含め市場での利便性を前面に出す事ができました。

 SHSセンサーを応用した製品展開としては、汎用天びん以外に加熱乾燥式水分計、自動機ライン用専用計量器となるAD4212シリーズ、ピペットの容量検査機器などがあり、裾野は広がりを続けています。

 SHSの開発についての正式見解は以上となりますが、実はSHS開発に着手した当時は競合他社の提案するセンサー部の高度な一体化の波に押されていました。その後SHSが完成してからも営業部門からはハイブリッドでは時代の波に乗り遅れると攻め立てられ、開発担当者として厳しい状況に晒されていました。

 この時逃げようにも逃げ場も無く、日々対策案に悶々とした事を覚えています。しかし、欧州出張時のバスでの移動時間に高度な一体化と一線を隔する中程度の一体化案を思い付き、その後、課題を解決する方法を考え続けて新しい方式としてのSHSを提案する事が出来ました。

 試作を約2年間繰り返し、基本性能の出た時は嬉しかった事を覚えています。 また、試作終了後に既存の高度生産技術を有するインフラを利用させていただき、同時にA&Dの所有するハードウエア、ソフトウエアを主とする社内要素技術を集結させ、新しい天びんとしてGX/GFシリーズの量産を軌道に乗せられた事は幸運でした。

 以上の経験から、新しいセンサー開発などの難しいテーマを担当する時には、現実を厳しく直視し状況を正確に認識する事と、その上でのひらめきとそれを実現する為の継続した努力が最も重要になる事を学習できたと考えています。