開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第15回
計量環境データロガーの開発

シリーズ 『開発者の思い』 第15回
2011年12月05日

計量環境データロガーの開発

計量環境データロガー:AD1687を開発しました。このロガーでは、計量値と計量器の設置された場所の温度、湿度、気圧、振動を時系列で同時に記録することができます。今回の開発者の思いでは、この製品を企画&開発した背景、開発目的、及び市場要求について説明します。

AD-1687分析天びんを使用する研究室では、計量器の性能を左右する環境条件を計量値と併記することが、当然のように行なわれています。その理由は、分析天びんの最小表示が0.1mg(1万分の1g)以下となり微量であること。また、ひょう量をその最小表示で割って得られた分解能が、200~2000万分の1に達し、その結果、通常の計測器では考えられないほど高い分解能を要求され、使用環境の影響を受け易い機器となる為です。

ところで、上記計量現場では気象計相当となる、温度/湿度/気圧の経時変化が記録できる記録紙+ペン式レコーダーが長らく使われて来ました。私たち天びん開発メンバーも古くからこの気象計を使っていました。しかし、肝心なときに紙が無くなったり、ペンのインクが切れて記録が取れなかったりして困った経験があります。また、計測データを確認するのにアナログ表示となり数値としての確定が困難、得られた結果のグラフ化ができないなど、扱いの難しさとデータ処理の自由度の低さが問題となっていました。そこで、色々な気象データをデジタルで記録できる機器の開発が望まれ、その後、温度、湿度、気圧などを記録できる各種ロガーが開発され、今では研究室や生産現場のいたるところで使われています。

このような状況は計量器を使用するあらゆる現場で起きています。特に計量器のユーザは、それらの環境パラメータ測定器を天びん、はかりの計量現場で使っており、最終的には環境データを確認して計量値の長期に渡る校正確認や繰返し性などの基本性能評価をしていました。

一方、計量の現場では、環境データと計量データをリンクさせグラフ化したり、数値処理したい時に、異なる機器に記録させたデータをいかに一元的に管理するのかが問題となっていました。記録媒体としてPCを利用すれば拡張性は確保されますが、その為にPCを占有するのは無駄があり、かつ専用のソフトが必要となり業務が煩雑になる。また、クリーンルームなどの環境ではPCの持込が出来ない問題や、セキュリテイの関係でUSBメモリなどの汎用記憶媒体の持ち込みが禁止されている場所があるなど、多くの不便さを伴っていました。

以上の問題を解決するには、天びんから得られる計量データと、天びんが設置された環境から得られる温度、湿度、気圧、振動などの環境データをまとめて管理する必要がありました。

そこで今まで市場には提案されていない、計量データと計量機器の設置環境データを同時に記録できるロガーを企画し開発しました。ロガーとしては、既に計量値のみを簡単に記録できる計量ロガー:AD1688を数年前に開発していましたが、今回の計量環境ロガーは、その上位機種として名称はAD1687:計量環境ロガーとしました。このロガーの開発では、専門分野外となる温度、湿度、気圧、振動などの扱いに難しい部分がありましたが、最近市場に出回っているデジタル出力を持つ小型センサーを利用することで、それらの問題を比較的容易に解決することが出来ました。

AD1687を計量器に接続した時は、プリントキーを押す度に、計量値(ゼロ点、秤量値)とその時の時間、温度、湿度、気圧、振動を記録できます。単独で置いた場合は環境データのみのロガーとして使用できますので、クリーンルームや研究室から、生産現場までの環境記録計として広範囲に利用できます。また、AD1687をPCと接続することで、得られたデータを専用ソフトなしでエクセルファイルなどに送り、データ処理することができます。この時、AD1687はPCから見るとUSBメモリ相当の記憶媒体として認識されます。

AD1687本体には、得られたデータのトレンドを自動スケーリングでグラフ化する機能や環境パラメータを例えば温度、湿度に限定して表示したりできます。また、得られたデータをPCに取り込み、専用ソフトウエア:“WinCT-Environment”を利用して、スパン値を計算したり、スパン値から繰返し性を評価したりする拡張機能を持たせるなど、多くの便利な機能が利用できます。この結果、AD1687は単なるデータ用専用記憶媒体としてだけでなく、積極的に計量環境を評価できるツールとして位置付ける機器とすることができました。

AD1687は極端に小さい訳ではありませんが、コンパクトですので、持ち運びが可能です。持ち運びに有利となる、防滴構造:IP65(機器本体)、1.5mからの本体落下に壊れない耐衝撃性など、ヘビーデューティな仕様となってます。これは工場の排水温の測定など、色々な計測場面で使用される事を想定している為です。

業界初となる計量環境ロガーが、計量器の使われる現場において、ユーザの潜在的需要に答える製品として使用されること。また、それによって計量現場で役に立つ計量管理の一助となる製品として認識される事を希望しています。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)